獅童さま

中村獅童さんが仕事復帰されました。

私がその名前を知ったのは、おそらく(観ていませんが)映画『ピンポン』からだと思います。そのあとの映画『阿修羅のごとく』を拝見し、その顔と名前が私の中に刻まれることとなりました。“四姉妹の中で一番目立たない三女の、気の弱い彼”それが獅童さんでした。

歌舞伎では2005年の中村勘三郎さんの襲名公演が、初めての拝見した舞台です。歌舞伎のことを何も知らない私にとって、その日の舞台上で名前を知っている数少ない役者さんの1人でしたが…残念ながらこの日の獅童さんは一幕だけの出演で、あまり記憶には残っていません。

それ以降は何度か博多座で拝見する機会がありましたが、長い間私には一出演者としての認識しかありませんでした。

地元博多座では母と一緒に観ることが多いのですが、いつの頃からか母が獅童さんの名前を口にすることが多くなりました。耳が遠くなり始めた母には、台詞が聞き取れないことが増えてきたようです。そんな中獅童さんの台詞は役柄のせいもあるのかもしれませんが、いつもはっきり聞こえると。

今では獅童さんの代表作となった『瞼の母』は静かに物語が進んでいきます。声を張るような場面はないのですか、それでも台詞は聞き取りやすく、静かに去っていくラストもとても感動的だったのを覚えています。

この10年でお役自体が大きくなっていったこともあるのでしょうが、獅童さんは私の中でいつも確実に印象に残る役者さんとなりました。中でも『怪談乳房榎』の、悪人ではあるけれど、色気たっぷりの磯貝浪江。また、石川五右衛門では、海老蔵さんの強いオーラに少しも負けていない強いワンハン。

私には“観にいく”役者さんが何人かいるのですが、いつしかその出演者の中に獅童さんの名前をみつけることが楽しみのひとつとなっていました。

さてこのたび秋の巡業が発表になり、日帰りできる場所での開催が予定されています。今回は出演者の1人としてではなく、中村獅童を観に行ってみようと思います。