魔法の粉

昨日は十八代中村勘三郎さんのお誕生日だったため、私が実際に観た舞台について振り返ってみました。そのせいか、夜なかなか寝つけずにいると、金銀の光のようなものが降ってきたような不思議な感覚に襲われました。何だろうと目を開けてみても、特別変わった様子はありません。気のせいかと思い目を閉じようとすると、今度は光とも粉とも知れないようなものが降ってくるのが見えたよう気がしました。

そのとき私の頭に浮かんだのは勘三郎さんのことでした。過去のインタビューで十七代勘三郎さんのことを"父の芸はお客さんに魔法の粉を撒いちゃうような、そんな芝居"と語られています。また市川猿之助さんにも"あんたは舞台に出た途端、お客様に魔法の粉をかけるんだ"。そしてその猿之助さんのことを、"俺に似てる"と勘九郎さんに話されていたそうです。ここ数年猿之助さんに魔法の粉をかけてもらっている私ですが、十八代勘三郎さんこそが、初めて魔法の粉をかけてくれた人です。

こんなことを考え続けさらに眠れなくなったため、先日テレビで放送され録画したままだった『研辰の討たれ(とぎたつのうたれ)』を見ることにしました。2005年5月の襲名公演の夜の部で上演されたものです。脚本・演出は野田秀樹さんです。

私は野田さんのお芝居を観たことがないので、何の予備知識もなく見始めたのですが、かなりの衝撃を受けました。

町人から侍になったものの、侍の生き方に否定的な辰次という男の話。侍たちに馬鹿にされたため、脅かすだけのつもりで仕組んだいたずら。それに驚いた相手が脳卒中で死んでしまう。その死に方を恥だと思う家来たちは死を辰次のせいにしてしまう。辰次を親の仇だと思い込んだ息子たちは、辰次を追って仇討の旅に出る。

というような話なのですが、ところどころに歌舞伎の型は出てくるものの台詞は現代語。とにかくスピーディーで当時のギャグがあったり、敵討ちに来た二人の息子(市川染五郎さん・中村勘太郎さん)に向かって役ではない本当の昔話をしたりと爆笑に次ぐ爆笑でした。

私はたいへん楽しめましたが、昔からの歌舞伎通にはどうだったのでしょう。批判も多かったのではないでしょうか。襲名披露にこの演目を選ぶところが勘三郎さんなのでしょうね。