博多座 夜の部

博多座の夜の部に行ってまいりました。

印象的だったのは成駒屋さん4人で演じられた『祝勢揃壽連獅子(せいぞろいことぶきれんじし)』です。谷に落ちた子供達が無事だとわかったとき、3人を見つめる芝翫さんの表情の優しいこと!その後獅子となった4人は毛振りはもちろんのこと、呼吸までもが揃っているようで、とても美しかったです。

特筆すべきは最後の演目『幸助餅(こうすけもち)』!

中村鴈治郎さん演じる穀物問屋の主である幸助が雷(いかづち)という関取に入れあげて、店を潰してしまいます。もう相撲には関わらないと誓って店の再建をしようとしますが、また雷に会い調子よく大盤振る舞いをしてしまう幸助。家人に諭されお金を返してもらおうと雷の元を訪れますが、相手にされません。数年後、恩知らずな雷への怒りをバネに餅屋として成功した幸助の元に雷が現れます。

そこで数年前の雷の態度は幸助を思ってのこと、餅屋の成功の裏にも雷の力があったことが明らかになるという物語です。

鴈治郎さんの幸助が素晴らしかったし、中村亀鶴さんの雷も姿も声も良かったです!

もともとこの雷は中村獅童さんが演じる予定でした。いつか獅童さんでも観てみたいです。

麻央さん

一度だけ新橋演舞場のロビーでお見かけしたことがあります。それだけなのにこの3日間、海老蔵さんのブログを見たり、テレビで麻央さんの映像を見るたびに涙が溢れます。そしてその美しい生き方が心に沁みていきます。


亡くなられたことが公表された23日、博多座の夜の部を観に行きました。夜の部には口上があります。4年半前中村勘三郎さんが亡くなられたあと、勘九郎さんの襲名披露公演千穐楽の口上を聞きながら、私は約20分泣き通しでした。

開演前にその時のことが一瞬頭をよぎったのですが、今回はそのようなことはなく、冷静に成駒屋さんのお祝いができました。これについてはまた改めて。




シネマ歌舞伎

シネマ歌舞伎東海道中膝栗毛〈やじきた〉』を見ました。

以前は年間50本以上映画館で映画を見ていたのですが、最近はほとんど見なくなってしまいました。歌舞伎を観始めた頃から少しずつ減ってきたのは、生の舞台の魅力に取り憑かれたからかもしれません。

じつはシネマ歌舞伎にもそれほど興味はなかったのですが、チケットをいただいたので初めて行ってみました。

大好きな猿之助さんということもあるかもしれませんが、予想よりもずっと臨場感がありカメラワークも素晴らしくて、ものすごく楽しめました!ぜひまた行ってみたいと思います。

そして今年の8月もまた猿之助染五郎コンビの〈やじきた〉です。しかも現在サブタイトルを一般公募中です。ご興味がある方は“歌舞伎美人(かぶきびと)”という松竹のサイトをご覧ください。


六月博多座 昼の部

博多座の昼の部に行ってまいりました。

今月は成駒屋さん・八代目中村芝翫さんと三人の息子さんの襲名披露公演です。

お昼の4演目のうち出演されるのは『車引』と『河内山』です。

『車引』は歌舞伎の三大義太夫狂言のひとつである『菅原伝授手習鑑』全五段のうちの三段目の一部で、舞台の華やかさや型の美しさから、一月の初春公演や京都の顔見世、また今回のような襲名披露で上演されることが多い演目です。菅原道真に仕えていた四郎九郎を父に持ち、権力争いに巻き込まれ敵味方に分かれてしまった梅王丸・松王丸・桜丸という三兄弟のお話です。

私の初歌舞伎である中村勘三郎さんの襲名披露公演も、昼の部はこの『車引』から始まりました。ちなみにそのときの三兄弟は海老蔵さん・勘九郎さん(当時は勘太郎さん)・七之助さんという豪華配役なのですが、当時歌舞伎の知識ゼロだった私にそのありがたみが分かるはずもなく、かなりあとになってから、もっとしっかりと目に焼き付けておけばよかったと悔やんでしまいました。

もうひとつの『河内山』は4年前、中村勘九郎さんの襲名公演の際に片岡仁左衛門さんで観たことがあります。河内山宗俊という悪だくみにたけたお坊さんが、お金目当てに大名屋敷に閉じ込められた質屋の娘を救い出すという物語です。

何度か観るとセリフもわかり、難しい話ではないこともわかるのですが、派手な演出があるわけでもなく、ゆっくりと進むお芝居です。この日の客席には高校生の団体さんがいて、イヤホンガイドをつけてはいるようでしたが、この中の何人がまた歌舞伎を観たいと思ってくれるでしょう。どうか一人でも多くの人がまた歌舞伎を観てくれますように。

 

じつは今月の博多座のチラシにはあらすじがありません。通常劇場に置いてある無料のチラシの裏面にはあらすじが書いてあり、それに目を通しておくだけでもお芝居の理解度がかなり違ってきます。筋書(パンフレット)を購入したり、イヤホンガイドを借りることもあるのですが、セリフやストーリーがわかりやすそうな世話物や新歌舞伎などは、目の前のお芝居に集中して自分の力でいろんなことを感じ取りたいと思うことがあります。そんなときにチラシは大事な手掛かりになることがあります。

ちなにみ今月のチラシは襲名される4人の紹介となっています。これももちろん嬉しいことではあるのですが、願わくば2種類用意していただけるとたいへんありがたいのですが...。

休演日⁉

歌舞伎座七月の詳細が発表になりましたね。

当初は中村獅童さんが出演予定だったため、演目を含めいろいろと変更になったようですね。話題になっているのはなんといっても海老蔵さんのご長男・堀越勸玄くんの出演、そして宙乗りでしょう。海老蔵さんの真似をして五右衛門のセリフを覚えたり、隈取を真似てお姉ちゃんと一緒にお顔に絵を描いたりしている姿が可愛くて、よくブログを拝見しています。初お目見えも生で観ることができなかったので、ぜひ今回は行きたいのですが、私自身の今後の予定次第、今のところはまだ未定です。

海老蔵さんのブログにもありましたが、この七月歌舞伎、なんと休演日があるのですね!通常歌舞伎は約25日間の昼夜2回公演でお休みはありません。役者さんによってはほとんどすべての演目に出演されることもあるので、文字通り“命を懸けて”やってくださっています。歌舞伎は400年以上の歴史があり、その伝統やしきたりを守ることはもちろんたいせつですが、この先もずっと残していくためには少しづつ変えていくべきこともあると思います。歌舞伎を知ってたかが10年ほどの私が言うことではないのでしょうが、この2回の休みが役者さんやそれに携わるスタッフの方にとってはその先の5年、10年に繋がることかもしれません。私のように地方に住んでいる方の中には、“たまたま東京に行く用事があるからこの機会に初めての歌舞伎座に行ってみようと思っていたのに休演日に当たってしまった”ということもあるかもしれませんが、大好きな歌舞伎がこの先もずっとずっと続いていくように、未来に繋がる新しい試みを歓迎したいと思います。

 

 

 

八月納涼歌舞伎

歌舞伎座の八月の演目が発表されました。

通常は昼・夜の二部制ですが、今回は三部制でチケット代も通常より少しお安くなっています。

長い間歌舞伎座では八月公演は行われていませんでした。それが1990年に当時35歳の中村勘九郎さん(のちの十八代勘三郎)、坂東八十助さん(のちの三津五郎)を中心に、若手が活躍できる公演を、と始まったのがこの納涼歌舞伎です。第一回には今では勘九郎さんに引き継がれ、中村屋の代表作となった『怪談乳房榎』や、今年はなんと勘太郎くんが務めることで注目の『団子売』などが並んでいました。

二回目以降も若手が大役を務める場であり、初めて歌舞伎を観る人にもわかりやすい演目が並んでいます。現在の新春浅草歌舞伎と似ているのかもしれませんね。

 

じつは今までなかなか8月は歌舞伎座へ行けなかったのですが、今年は歌舞伎未体験の友人を誘って、必ず行こうと今から気合いを入れています。少しでも歌舞伎に興味を持ってくれるとうれしいのですが…。

 

 

魔法の粉

昨日は十八代中村勘三郎さんのお誕生日だったため、私が実際に観た舞台について振り返ってみました。そのせいか、夜なかなか寝つけずにいると、金銀の光のようなものが降ってきたような不思議な感覚に襲われました。何だろうと目を開けてみても、特別変わった様子はありません。気のせいかと思い目を閉じようとすると、今度は光とも粉とも知れないようなものが降ってくるのが見えたよう気がしました。

そのとき私の頭に浮かんだのは勘三郎さんのことでした。過去のインタビューで十七代勘三郎さんのことを"父の芸はお客さんに魔法の粉を撒いちゃうような、そんな芝居"と語られています。また市川猿之助さんにも"あんたは舞台に出た途端、お客様に魔法の粉をかけるんだ"。そしてその猿之助さんのことを、"俺に似てる"と勘九郎さんに話されていたそうです。ここ数年猿之助さんに魔法の粉をかけてもらっている私ですが、十八代勘三郎さんこそが、初めて魔法の粉をかけてくれた人です。

こんなことを考え続けさらに眠れなくなったため、先日テレビで放送され録画したままだった『研辰の討たれ(とぎたつのうたれ)』を見ることにしました。2005年5月の襲名公演の夜の部で上演されたものです。脚本・演出は野田秀樹さんです。

私は野田さんのお芝居を観たことがないので、何の予備知識もなく見始めたのですが、かなりの衝撃を受けました。

町人から侍になったものの、侍の生き方に否定的な辰次という男の話。侍たちに馬鹿にされたため、脅かすだけのつもりで仕組んだいたずら。それに驚いた相手が脳卒中で死んでしまう。その死に方を恥だと思う家来たちは死を辰次のせいにしてしまう。辰次を親の仇だと思い込んだ息子たちは、辰次を追って仇討の旅に出る。

というような話なのですが、ところどころに歌舞伎の型は出てくるものの台詞は現代語。とにかくスピーディーで当時のギャグがあったり、敵討ちに来た二人の息子(市川染五郎さん・中村勘太郎さん)に向かって役ではない本当の昔話をしたりと爆笑に次ぐ爆笑でした。

私はたいへん楽しめましたが、昔からの歌舞伎通にはどうだったのでしょう。批判も多かったのではないでしょうか。襲名披露にこの演目を選ぶところが勘三郎さんなのでしょうね。